不合格が明らかになると,すぐにスーツに着替え始めた。
内定先の事務所に謝罪に行かなければ。
事務所に電話をかけて,二回試験に落ちたこと,今から報告に行くことを伝えた。
コートを羽織ろうとして,ふと手が止まる。
そのコートは,弁護士になって,颯爽と歩く自分を想像して買ったものだ。
心が沈んだ。そっと,安いコートに取り替えた。
あたふたとカバンを取って玄関先に行く。
そこには,「弁護士になるから!」と,勇んで買った高級靴がきれいに並べられていた。
来月から働くことを見越して,ありったけの余裕資金を投入して買ったものだ。
いたたまれなくなって,下駄箱から雨用のボロ靴を出して履いた。
事務所では,謝るしかなかった。
本当に迷惑をかけた。自分もよくわかっている。
帰り道,修習のクラスメートから電話が入った。
私が落ちたなんて想像だにしていないのだろう。裁判所の挨拶回りに行くかどうか聞かれた。
私は,「落ちた」ということを言い出せなかった。
「急いでいるからまた電話する」とその場を濁し,電話を切った。
今更どうしようもない見栄を張った気がして,むなしさだけが残った。